11月号「相続放棄について」
2023.11.01
最高裁の司法統計によると、令和(2021年)の相続放棄申述事件の新受件数は、25万1993件とされており、年々増加傾向にあります。
相続放棄とは、被相続人の権利及び義務を一切承継しないという選択方法をいいます。一般的に、相続放棄は、被相続人のマイナスの財産(借金や連帯保証などの債務)がプラスの財産(土地建物などの不動産や預貯金など)よりも多い場合に、債務の承継を回避するために相続人が選択されることが多いです。相続放棄の手続きは、原則として、自己のために相続の開始があった時から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。
相続放棄は、前述のとおりマイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合のほか、被相続人が遺言を作成しておらず遺産分割協議に参加したくない場合や、相続人が多くの生前贈与を受けていた場合、遺留分侵害請求を受けたくない場合などにも選択される人もいます。
なお、「この財産は相続したいけれど、あの財産は相続したくないので放棄したい」と言う方がいらっしゃいますが、不要なものだけを手放すことはできず、相続放棄はすべての相続財産を相続しないという選択ですので、相続放棄をする場合は相続する財産を選択することはできません。つまり、相続放棄をした人は、民法上、はじめから相続人でなかったものとして扱われるため、相続による財産の取得が一切できなくなるのです。
ただし、相続放棄をした場合であっても、被相続人が保険料の負担者かつ被保険者である保険契約による死亡保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産となるため、相続放棄をした場合でも受け取ることができます。また、遺族年金や未支給年金についても、相続財産ではなく被相続人の遺族の一定の要件に該当する人の固有の権利なので、相続放棄をした人も受給することができます。
相続放棄の主な留意点としては、①死亡保険金の非課税制度、②債務控除、③単純行為とみなされる行為が挙げられます。
①死亡保険金の非課税制度とは、相続人が受け取った死亡保険金は、税法上、「500万円×法定相続人の数」という非課税限度額まで相続税が課されません。この「法定相続人の数」には、相続を放棄した者も含まれます。ただし、相続放棄した者には、受け取った死亡保険金には非課税の適用はありませんので注意が必要です。
②債務控除とは、相続税の計算上、相続人や包括遺贈者は相続財産から被相続人の債務を控除することができますが、相続放棄をした者は控除することができません。
③単純行為とみなされる行為をした場合、相続放棄が認められなくなる場合があります(例えば、被相続人の不動産を売却するなど)ので、相続放棄を検討されている方は注意が必要です。
もし相続人になったらどうするかということについて、相続放棄は債務免除だけではない制度であることや相続放棄の留意点を頭の片隅に入れていただいて選択していただきたいと思います。
ワンストップ相続のルーツ
代表 伊積 研二