相続ニュース

このコーナーでは、相続に関する情報をお届けします(毎月1日更新)

2月号 「配偶者の居住の権利」

2020.02.01ニュース

今年は、平成29年度に成立した配偶者居住権や法務局での自筆証書遺言の保管制度など、相続関係の改正民法の一部が施行されます。配偶者居住権は、今年4月1日以降の相続から適用されます。

今回は、被相続人の配偶者の権利として新たに制定された、「配偶者居住権」(民法1028条1項)と「配偶者短期居住権」(民法1037条)についてご紹介します。

◆配偶者居住権(民法1028条1項)

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者(以下単に「配偶者」といいます。)が、被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住していた場合、その居住建物の全部について原則として配偶者が無償で居住収益できるとする法定の権利をいいます(民法1028条1項、1030条)。

この配偶者居住権の新設により、配偶者が安心して住み慣れた家で居住できるようになりました。しかも、配偶者居住権は、基本的には所有権よりも評価額が低く評価されるため、最終的には預貯金などの財産もより多く相続できるようになります。

配偶者が配偶者居住権を取得できる場合は次のとおりです。

①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき(民法1028条1項1号)

②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき(民法1028条1項2号)

③以下の場合に遺産分割の請求を受けた家庭裁判所が配偶者居住権を取得する旨を定めたとき(民法1029条)

・共同相続人の間で配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき(民法1029条1号)

・配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められるとき(民法1029条2号)

※納得していない他の相続人がいる場合であっても、③によると配偶者が配偶者居住権を取得できる場合があることになります。

ただし、以下の場合には配偶者居住権は成立しません。

被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません(民法1028条1項柱書ただし書)。配偶者居住権は無償、つまり対価(賃料等)なしに成立するため、共有者にこの負担を負わせることはできないとされています。

なお、配偶者居住権は、原則として配偶者の終身の間存続する権利ですので、登記ができ、登記が対抗要件となります(民法1031条)。

◆配偶者短期居住権(民法1037条)

配偶者短期居住権とは、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、その居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者に対し、居住建物を最低6か月間無償で使用できる権利をいいます(民法1037条)。つまり、遺産分割で居住建物の帰属が確定するまで等の場合に成立する、配偶者の短期的な住まいの確保のための権利なので、終身の配偶者居住権と比較して「短期」の居住権とされています。配偶者が居住建物の一部のみを無償で使用していた場合には、その一部を無償で使用できることになります。

この配偶者短期居住権の新設により、配偶者は、相続開始の時から少なくとも6か月の間は居住権を主張できるため、この期間は住まいの確保をすることができます。

ただし、以下のいずれかの場合には配偶者短期居住権は成立しません(民法1037条1項柱書ただし書)。

①配偶者が欠格者であるとき

②配偶者が被廃除者であるとき

③配偶者が相続開始の時に配偶者居住権を取得したとき

配偶者短期居住権の存続期間は次のとおりです。

①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

  →遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月 を経過する日のいずれか遅い日(民法1037条1項1号)

②上記①の場合以外の場合

  →居住建物の取得者が配偶者短期居住権の消滅を申入れした日から6か月を経過した日(民法1037条1項2号)

なお、配偶者短期居住権は、短期間の暫定的な権利ですので登記できません。

このように、高齢化社会を踏まえた相続法の改正がなされています。この新しい制度も上手に活用して、円満で満足のいく“幸せな相続”を迎えて頂きたいと思います。

                                     ワンストップ相続のルーツ

                                          代表 伊積 研二

令和2年(2020年) 年頭のご挨拶

2020.01.06ニュース

新年明けましておめでとうございます

皆様よいお年をお迎えのこととお慶び申し上げます

さて、今年はどのような年になるでしょうか。

“子年”は、十二支の新しい運気のサイクルが始まる年です。植物に例えると成長に向って種子が膨らみ始める時期で未来へ大いなる可能性を感じさせる年になりそうです。

今年、おかげさまで弊社は設立15周年を迎えますが、これを節目に事業内容をこれまでどおり相続コンサルティングは主軸にするとしても、事業承継コンサルティングにも力を入れていく方針です。

現在、日本の中小企業における事業承継の現状は、2019年版中小企業白書よると、休廃業及び解散件数は約4万7千件にものぼり増加傾向にあります。日本経済を支える中小企業の雇用や技術の損失、さらに、地域経済の衰退へと繋がっており、大きな社会問題になっています。

また、中小企業の最も多い経営者の年齢は69歳になっており、1995年では47歳であったのが、この23年間に経営者の高齢化が大きく進展しています。 これは中小企業の後継者難が増加していること、平均寿命の上昇、事業承継対策への取り組み時期の遅れなどにより、経営者の在任期間が長期化していることが要因となっています。

それから、中小企業の事業承継の方法は、親族内承継(配偶者、子、孫、兄弟姉妹)から親族外承継(役員、従業員、M&A)に大きく変わってきました。 かつては、親族内承継は全体の約90%を占めていたものが、約55%までに減少しており、その代わりに親族外承継が約35%と増加しています。

親族内承継の場合、後継者が決定して実際に引継ぐまでの期間は、約52%が1年以上、内、約24%が3年以上掛かっています。実際には、後継者が決まるまでの期間や引継ぎ後の並走期間もあり、5年以上は掛かります。 一方、親族外承継(M&A)の場合は、約30%が1年以上掛かっていますが、約70%は1年未満の引き継ぎ期間で済んでいます。どちらの方法を選択するにしても、先ず、早い段階で事業承継対策を始めることが重要です。

弊社は、このような状況を踏まえて、対象となる中小企業に事業承継コンサルティング業務を提供し、その企業の存続と繁栄に貢献し、更には社会に貢献することを目的として業務に力を入れてまいります。

今年も、弊社のクライアントとなられた個人や法人の皆様に対して、個々のニーズにマッチした質の高いサービスを提供し、この会社に任せて本当に良かったと思って頂けるように邁進していきたいと考えております。 最後になりましたが、今年一年の皆様のご健康とご多幸をお祈りし、年頭のご挨拶といたします。

  令和2年(2020年)元旦

                           株式会社日本相続センター

ワンストップ相続のルーツ

代表 伊積 研二

12月号 「一年を振り返って」

2019.12.02ニュース

皆さまにとってこの一年はどのような年だったでしょうか。 今年5月1日に皇太子さまが天皇陛下に御即位され、新しい天皇皇后両陛下が誕生するとともに、元号も「平成」から「令和」へと改元されるという記念すべき一年でした。

それから、これまでの相続ニュースでもご紹介してきましたように、約40年ぶりに民法の相続法の分野で大幅な改正がなされた一年でもありました。 いずれの出来事も、前の天皇皇后両陛下のご年齢への配慮、高齢化社会への対応という点で、世相を反映する大きな出来事だったと思います。

相続法の主な改正点としては、

配偶者居住権の新設

自筆証書遺言の方式緩和及び法務局での保管制度の新設

遺留分制度に関する見直し

特別の寄与制度の新設

などが挙げられますが、配偶者居住権以外の改正については既に施行されています(配偶者居住権についての施行日は2020年4月1日)。

なお、各法律の詳細につきましては、以前の相続ニュースでご紹介しましたので、ここでは割愛させて頂きます。

税制では、相続に関する税制改正の中でも意外と知られていない改正に、平成30年(2018年)に税制改正された「相続を原因とする土地の相続登記の登録免許税を免税」とする措置があります。

この措置は、相続により土地を取得した方が相続登記をしないで死亡した場合の登録免許税の免税措置です。 通常、不動産の所有者が死亡した場合は、相続を原因とする所有権の移転の登記が必要ですが、法律で登記期限が定められていないために、相続登記が未了のまま放置され、その結果、様々な社会問題が出てきています。

この免税措置は、相続登記の促進を図り、空家などの社会問題を軽減することが目的だと思われますが、2018年4月1日から2020年3月31日まで の間に申請された土地のみの相続登記が対象となりますので、対象となる方は早めに申請された方が良いでしょう。

この制度を活用して、相続登記をしないまま何代もそのままになっていたり、お金がかかるからと相続登記を放置していたり、面倒だからと手をつけないままでいる厄介な状態を改善していただきたいものです。

これから師走も大詰めになります。ただでさえ急かされる気持ちになりますが、できる限り早めに準備をして、穏やかに年末年始を迎えたいものです。 相続も「備えあれば憂いなし」、「転ばぬ先の杖」が必要です。後回しにすればするほど実は厄介ですので、例えば、法改正の再確認やご自分の財産の総決算など今できることから手掛けて、年明けにでも頼れる相続のプロにご相談頂ければと思います。

少し早いですが、今年も一年大変お世話になり、誠にありがとうございました。 来る年が皆様にとって素晴らしい一年となりますようにお祈り申し上げます。

                                      ワンストップ相続のルーツ

                                           代表 伊積 研二

11月号「事業承継にも関連する相続法改正」

2019.11.01ニュース

これまでの相続ニュースでは、主に個人の相続からみた相続法改正(民法改正)をご紹介してきましたが、法人の事業承継に関わる面からも影響があります。今回は新民法903条第4項が、どのように事業承継で関わるのかについてご紹介します。

◆特別受益の持戻免除の意思推定(新民法903条第4項) 今回の改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方(例えば夫)の死亡により残された配偶者(例えば妻)に対し、居住用不動産の遺贈又は生前贈与について持戻し免除の意思表示があったものと推定され、配偶者が最終的により多くの相続財産を取得できるようになりました。

新設された規定(新民法903条第4項)の要件は、簡潔には以下のとおりです。

・  婚姻期間が20年以上の夫婦であること

・  居住用不動産であること(「居住の用に供する建物及び敷地」)

・  遺贈又は生前贈与について被相続人の意思表示が推定されること(「民法903条第 1項〈特別受益の相続分の持戻し〉の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定」)

例えば、株式会社甲の株式を全て経営者Aが保有しており、配偶者B、子C、Dがいた場合において、AはCを後継者として甲社の事業承継を望んでいたが、遺言書がないまま死亡したケースで検討してみます。

Aの財産は、甲の株式1,000万円、預金3,000万円、財産総額4,000万円があり、債務はなかったものとします。なお、生前にAはBに対し、老後のことも考えて自宅(居住用不動産)2,000万円を贈与していたとします。

先ず、Aの相続人はB、C、Dですが、Aの遺言書はないので、株式については相続人間で準共有となり、法定相続分により、Bが2分の1、CとDがそれぞれ4分の1ずつの相続分を有することになります。

そこで、Aが望んでいたようにCが後継者となるためには、BCDが遺産分割協議をして株式持分全部をCに集中するように事業承継を進める必要があります。その結果、Cは財産総額からみて、法定相続分4分の1の株式1,000万円を相続します。

次に、居住用不動産については、前述の新法の要件を満たせば、Bへの居住用不動産の帰属は持戻しの対象外となり、Bは預金についても相続分を有することができますので、Dと預金を分割し相続します。 その結果、Bは財産総額からみて、法定相続分2分の1にあたる預金2,000万円を相続することができ、Dは法定相続分の4分の1の預金1,000万円を相続することができます。

これにより、Cに事業承継、Bに老後の生活保障、Dも含めて円満で幸せな相続の実現を図ることができます。

しかし、前述の新法の要件を満たしておらず、Bへの居住用不動産の生前贈与が持戻しの対象になる場合はどうなるのでしょうか。

Aの財産は、甲の株式1,000万円、預金3,000万円に、居住用不動産2,000万円を持戻すことになるため、財産総額は6,000万円になります。 その結果、Bは法定相続分2分の1の3,000万円、CとDはそれぞれ法定相続分4分の1の1,500万円ずつを相続することになります。

これにより、Bは居住用不動産2,000万円と預金1,000万円を相続し、Cは株式1,000万円と預金500万円を相続し、Dは預金1,500万円を相続します。 このように、持戻しの対象になるか否かにより、分割内容と金額が変わってきます。

もし、Aの財産は、甲の株式2,000万円、預金2,000万円、財産総額4,000万円があり、債務はなし、生前にAはBに居住用不動産2,000万円を贈与しており、持戻しの対象にならない場合ではどうなるでしょうか。

財産総額4,000万円を分割するので、Bは法定相続分2分の1の2,000万円、CとDはそれぞれ法定相続分4分の1の1,000万円ずつを相続することになります。 その結果、Bは預金1,000万円と株式1,000万円を相続し、Cは株式1,000万円を相続し、Dは預金1,000万円を相続したとなると、Cは経営権が不安定になります。

現実の相続では、相続人の数、財産の内容と金額、特別受益の持戻しの有無、事業承継の有無などその家族ごとに内容が異なります。そのため、被相続人が生前からしっかりと対策をしておかなければ、残された相続人が困ることになりかねません。 具体的に対策を検討されたい方は、当センターにお気軽にご相談ください。

(参考) 相続税法上においては、既に配偶者保護の規定として、税法上の特例があります(相続税法21条の6)。この規定も、婚姻期間が20年以上の夫婦で居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与があった場合、一定の要件のもとで最高2000万円まで控除することができます。

ワンストップ相続のルーツ

代表 伊積 研二

10月号 「遺言執行者の権限の明確化」

2019.10.01ニュース

相続法の改正により、遺言執行者の権限が新民法にて明確化されることになりました。 主なポイントは以下のとおりです。 ・遺言執行者の通知義務(1007条第2項の新設) ・遺贈の履行に関する遺言執行者の権限(1012条第2項の新設) ・遺言執行者の復任権の拡大(1016条第1項、第2項) 今月号では、これらのポイントを簡単にご紹介します。

1,遺言執行者とは

遺言執行者とは、端的には、被相続人の遺言内容を実現するため、適正に各種手続きや相続処理を遂行する人をいいます。遺言執行者は、遺言で一人または数人指定できますが(民法1006条、以下同法。)、指定するかどうかは任意です。したがって、遺言で指定されていない場合があります。その場合は、利害関係人の請求によって、家庭裁判所に請求し、指定してもらうこともできます(1010条)。

2,遺言執行者の通知義務(1007条第2項の新設)

これまで、遺言執行者は、遺言執行者になった旨について通知義務が課されていませんでしたが、相続人は遺言の内容や遺言執行者の有無について影響があるので、相続人の利益を保護するため、相続人に対する通知義務を課しました(1007条第2項)。 具体的には、遺言執行者は、遺言執行者に就任した場合、就任を承諾した旨、任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。なお、この通知は、相続人保護の観点から規定されているので、相続人に対して実施すれば足り、相続人以外の受遺者等への通知までは必要ありません。

3,遺贈の履行に関する遺言執行者の権限(1012条第2項の新設)

前述のとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(1012条第1項)。 新法では、受遺者による履行請求の相手方を明確化するため、遺言執行者が在る場合の遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができるとされたので(1012条第2項)、受遺者は、物の給付や対抗要件具備(登記など)などの履行請求をする場合は、遺言執行者にしなければなりません。

4,遺言執行者の復任権の拡大(1016条第1項、第2項)

遺言執行者は、遺言者が遺言に反対の意思を表示した場合を除き、「やむを得ない事由」がなければ、第三者に復任できませんでしたが、新法により、「自己の責任で」第三者に遺言執行の任務を行わせることができるようになりました。 実際に遺言執行者として相続人が指定されることが多い一方で、必ずしも指定された相続人が相続について十分な知識がないことや、遺言執行の職務自体が広範で適切に処理ができず、適切な遺言の実現が困難な場合があるため、新法では遺言者が遺言で別段の意思を表示しない限り、「自己の責任で」第三者に任務を行わせることができることになりました(1016条第1項)。 その場合、遺言執行者は、相続人に対して、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、相続人に対して第三者を選任及び監督についての責任のみを負うこととされました(同条第2項)。

改正法では、遺言執行者の権利義務がより明確化され、権限も拡大しているところがポイントです。遺言執行者を遺言で指定する際は、これらの点も考慮されて、相続人に任せるのか、予め専門家などの第三者に任せるのかということについても検討されることをお勧めいたします。

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                                     代表 伊積 研二

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